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続・匠の技をプログラムする(メカAG)

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続・匠の技をプログラムする(メカAG)
今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

続・匠の技をプログラムする(メカAG)

マンガ「こち亀」にこんなエピソードがあった。詳細は忘れたけど、大原部長が慣れない帆船模型作りに挑戦する。あらかじめパーツは加工してあるから、基本的にはそれらを組み立てればいい。

しかしすぐに行き詰まってしまう。船体の横を覆う板の長さが短くて貼れない。板の長さが足りないなんて不良品じゃないか?と。ところが両津はこともなげにいう。先に船体の片側の板だけを貼ってしまったら、船体が歪んでしまうのは当たり前だ、と。

大原部長は船体の右側の板を先に全部貼ってしまたので、板の張力で船体全体が右側に反ってしまい、結果的に左側の板の長さがたりなくなったのだという。つまりこの場合、船体が歪まないように左右同じペースで板を貼り付けていかなければならないわけだ。

でも模型の作り方にはそういう細かな部分は書いていない。このレベルの模型を作る人なら、当然知っているべき知識だからだ。

結局、匠の技というのも、なにか神秘的なものというよりも、こういう膨大なノウハウの集大成だと思うんだよね。量が多すぎてとても全部は語り尽くせない。あらかじめすべて列挙できない。必要になった場面でのみ「こういうときは、こうするんだ」としか説明できない。

   *   *   *

むかし温泉旅館の安っぽいショーで、輪投げの名人(?)が演技をしていた。無数の輪を空中に放り投げて、頭で全部受け止めたり。でも細かく見ていると、実は結構ミスをしている。でも、上手におどけたりして、ミスに見せない。観客は「ああ、最初からこういう演出なんだな」と思うだけ。

別な話。youtubeの動画だったと思うけど、ウルトラマンに扮した人が、かっこ良く舞台に登場したんだけど、なんか躓いてよろけてしまった。でもその人はすかさずそこから前転してみせた。司会の大人はちょっと苦笑してたけど、子供だったら躓いたことのリカバーだとわからないよね。ウルトラマンが躓いてよろける姿を見せて、子供の夢を壊してはいけないと、言われてるのだろう。

名人の名人たる強さというのは、無数の引き出しをもっていることだと思う。我々が表面で見ているものの数千倍ぐらいあるんじゃないかと思うほど。で、リカバーがうまい。

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ある問題に対する解決手段の候補として、凡人は数個しか持ってない。名人はストックが数千個ある。数千のなかから最適なものを選ぶんだから、そりゃ成功する確率が高いだろう。

とはいえ名人も神ではないから、「最適」だと選んだ手段が実はそうでないということもある。でもその場合にどうするか?までが情報のストックなんだよね。この方法Aでやってみて、うまくいけばよし、上手くいかない場合はすぐさま方法Bに切り替える。この切り替えが無意識なレベル。だから名人の判断は必ず正しい。最初からそのつもりだったというぐらい自然な流れで、臨機応変に取るべき手段を切り替えてしまう。

時々テレビでやっている職人の仕事を紹介する番組、レポーターの「これを、これからどうするんでしょう?」という質問に、職人は無愛想になにも答えない。これも答えないというより答えられないのだろう。作り始めてみないと、わからない。まさに「それは素材に聞いてくれ」と。

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名人は方法Aが必要なケース、方法A’が必要なケースを、きちんと判別している。ときどき裏目にでて方法A’を適用すべきケースに方法Aを適用してしまったとしても、すぐにそれに気づき軌道修正してしまう。

いっぽう素人が見よう見まねでやろうとすると、方法Aしか知らないから、それを遮二無二やろうとするだけなんだよね。だから失敗する。そして名人が「そこは方法A’でやりなさい」とアドバイスしても、どういう時にどっちを使ったらいいかの判断ができない。

たぶん素人は事前に判断しようとしてるのだと思う。で、前提条件をいくら見比べても区別がつかなくて困惑するばかり。名人はたぶんやり始めてから、途中で判断をするのだろう。それがいわゆる「感触」みたいなもの。とりあえず方法Aで初めて見て、状況を見て必要なら方法A’に切り替える。

ただ素人にアドバイする場合は、最後の選択部分だけしか言わないので、素人にはなかなか判断基準や判断のタイミングがつかめない。

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これが俺なりの「匠の技」の正体。なんか手品に似ているよね。手品は観客のミスリードを誘う。何かものを入れ替える手品なら、観客が「まだ入れ替わってないはず」という時にはすでに入れ替わっている。あるいは逆に「入れ替わったんだ」と見せかけて、実は本当の入れ替えはその後だったりする。

たとえば細工をしてあるものを入れ替える。観客に「ほら、入れ替わりましたね」と見せる。さらにその後に、観客にそれを渡して種も仕掛けもない事を確かめさせるのだが、実はこのタイミングで本物(仕掛けがないもの)と入れ替えている。観客にしてみれば、もう手品のクライマックスは終わったつもりになってて、あとの確認作業なんて余興みたいなものだから、このタイミングで入れ替えたことに気づかない。

手品というのは基本的には「これからなにが起こります」と説明しないんだよね。だから結果的に不思議なことが起きたとしても、本当に最初から手品師がそれを狙っていたとは限らない。

手品師が「1から10までの好きな数を選べ」という。相手がたとえば「3」を選ぶと、手品師はニヤリと笑って、「そこのコーヒーカップの裏側を見てみろ」という。コーヒーカップの裏には「3」と書いてある。でも実はいろんな物の裏側にそれぞれ1~10の数が書いてあったりする。手品師は相手が選んだ数に対応する○○を指定すればいい。

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奇妙奇天烈摩訶不思議な匠の技も、そういう側面があるように思う。ミスをしない人間というのはごまかし方が上手い。ごまかしというと語弊があるなら、リカバーの仕方か。

普通の人だって無意識にやってるんだよね。たとえば「家から駅に行く」という行動でさえ、途中に犬のフンがあったら避けるとか、道を聞かれたら残り時間に応じて対応を変えるとか、雨が降ってきたら駆け出すとか、実は無数のノウハウを臨機応変に駆使してるはず。あまりにも数が多いのと確率的にめったに起きないから、あらかじめリストアップするのが不可能だというだけで。

だから「家から駅に行く」というのは、多少の紆余曲折はあっても、たいてい成功する。多くの人間は「家から駅に行く」達人なのだ。でも小さな子供にとっては難しい。「はじめてのおつかい」じゃないけど、いろいろ想定外のことが起きて、そのたびにどうすればいいか困ってしまう。ノウハウのストックが圧倒的に少ないから、ちょっとしたアクシデントにも立ち往生してしまう。

関連記事:
「匠の技をプログラムする」 2014年06月27日 『ガジェット通信』
http://getnews.jp/archives/607971

執筆:この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年06月26日時点のものです。


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