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コトバヨネットが選ぶ今月の一冊:A.K.I.PRODUCTIONS『小説「我輩はガキである・パレーシアとネオテニー」』のブックレット

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京都・浄土寺『コトバヨネット』店主 松本伸哉さん

「これ、本じゃないんやけどいいかな?」

『コトバヨネット』の店主・松本伸哉さんに手渡されたのは、ヒップホップのCDのブックレットでした。A.K.I. PRODUCTIONSの「小説『我輩はガキである・パレーシアとネオテニー』」。松本さんは、実家から送られてきたという豆(うすいえんどう)の皮を静かに剥いています。私もまた、向かいの椅子に座って豆を剥きながら話を聴くことにしました(取材後、おみやげにいただきました)。

「俺、本を読んで泣きそうになることとかないんやけど、全然そういう内容じゃないんやけど、ちょっと泣きそうになったというか」。

いったいこのブックレットの何が、一見コワモテ風の松本さんの胸を熱くさせたのでしょうか? その話に入る前に、まずは『コトバヨネット』というお店についてご紹介しましょう。



●左京区の新拠点・浄土寺の古本・雑貨店『コトバヨネット』
京都・浄土寺『コトバヨネット』
『コトバヨネット』は、一乗寺に続く京都・左京区の新拠点・浄土寺の『ハイネストビル』二階にある古本・雑貨店。『ハイネストビル』は、一階にギャラリースペースを持つ古いビルです。約3年前、松本さんは事務所の移転先を探しているときにこのビルを発見。二部屋つづきで借りて壁を抜き「店部」と「事務所部」を作ることにしました。

現在の『ハイネストビル』には、3階に自家焙煎珈琲の『miepump coffee shop』(土日月のみ営業)や絵描き・イラストレーターの西淑さんのアトリエも入居。暮らす人と作る人が混ざりあい、生活と文化がゆるやかに発信されているビルとして知られるようになりました。

『コトバヨネット』店内中央のテーブルには、作家ものの陶器をはじめとした雑貨・古道具類、壁際の本棚にはアート系の写真集や画集、ライフスタイル関連からゴリゴリの思想・哲学系の本までずらりと並んでいます。

「お客さんの8割は女性。主婦のお客さんも多いので、近所の子どもの成長を見守ったりできるんです。子どもって一年くらいで急におねえさんになったりするから『おっきなったなぁ』って声をかけたりして。今はおだやかな気持ちで店に立っています」。


●「常に全裸状態」で店に立っていたレコード屋時代
京都・浄土寺『コトバヨネット』のエントランス
『コトバヨネット』をはじめる以前、松本さんは『MENSOUL RECORDS』というレコード屋さんを約10年営んでいました。当時を振り返って「もうあんな殺伐とした商売はやりたくない」と言いますが、なぜ松本さんレコード屋さんをすることで殺伐としていたのでしょうか…?

「レコード屋時代は、自分の“文化”の部分をそのまま全部出してやるから常にフリチン状態、もう全裸で店に立ってるような感じでした。ここは、“生活”の部分でやっている店だから、服を着て仕事ができてる感じですね」。

松本さんにとって「“文化”の部分をそのまま出す」ということは、自分をすべてさらけ出して人前に立ち続けるということ。「マニアの人を相手に常に変化球を投げてやろうとして疲弊していた」という松本さんの果てしない闘い(?)のせいでしょうか。「人を斬り殺した直後のような顔をしてる」とまで言われたこともあったそうです。

あ、今でも変化球を投げてやろうという気持ちは全然持ってるけどね」。

なるほど……まさに、今回紹介してもらう「一冊」も変化球としか言いようがありません!


●コトバヨネットが選ぶ一冊:『小説「我輩はガキである・パレーシアとネオテニー」』のブックレット
京都・浄土寺『コトバヨネット』が選ぶ一冊(?)
タイトル:小説「我輩はガキである・パレーシアとネオテニー」【44Pブックレット付】
アーティスト名:A.K.I.PRODUCTIONS
レーベル: 倫理B-BOY RECORDS / AWDR LR2 / BounDEE by SSNW.
※コトバヨネットでの店頭在庫はありません。




A.K.I.PRODUCTIONSは、ラッパーのA.K.I.(エーケーアイ)が1989年に結成。現在は、A.K.I.がひとりユニットで活動しており、『小説「我輩はガキである・パレーシアとネオテニー」』は2012年に発表された3枚目のアルバムです。同アルバムに付属しているブックレットこそ、松本さんを「ちょっと泣きそう」な気分にさせたモノの正体です。



「僕の好きな小説やヒップホップは、異種交配によって生まれた突然変異の表現です。勿論、ジャンルとしての「小説」や「ヒップホップ」も決して嫌いではありませんし、否定もしませんが、僕は、そうではないものの方に、よりワクワクする人間なのです。」
『小説「我輩はガキである・パレーシアとネオテニー」』のブックレットより




松本さんは、ヒップホップは「自分の成長とともに発展してきた音楽で、最も同時代性が高い。異常なこだわりが自分のなかにある」と言います。そして「あなたの好きなヒップホップについて教えてください」って言われても「教えられない」と感じているのだそうです。

「もちろん、世の中の人が持っているイメージや、ヒップホップが誕生した歴史の話はできるけど、全然違う……全然違う要素を持つものが混ざり合ってできたものって、混ぜてみないと何ができるかわからんやん? ヒップホップをやろうと思っていなかったのにヒップホップになってしまったとか、音楽ってそういうのがすごく多い気がしていて。偶然性に任せてできるものを、体系的に説明でけへんから」。

そして、その説明できなさに立ち向かっていったのがA.K.I.だと松本さんは感じているのだと言うのです。


●“説明できないつじつま”こそがヒップホップ!なのか?
京都・浄土寺『コトバヨネット』
ものごとの本質に迫ろう、迫ろうとすればするほどに自分の手から離れて行くような感じってあるやん? 逆に、どうでもいいことの積み重ねをしているうちに、問題が解決することがけっこうある。あと、無理に答えを導き出すのではなく、カオスはカオスのまま放置しておいた方がいい場合もある」。

その対極にあるのが「情報だけをとらえていて、それが正しいかどうかだけに振り回されてじたばたしている」というあり方だと松本さんは言います。たとえ他人に説明できなくても、世界中でただひとり自分のなかではつじつまが合っているということがある……思えば、誰の人生だって説明できないつじつまで成り立っているのではないでしょうか。

「これを読んで、きっとA.K.I.っていう人もほぼ自分と同じ悩み方をしてきたんやなって思ったので。ヒップホップについて尋ねられているのに、全然関係ない柄谷行人のことを話し始めるのがヒップホップだ、みたいなことなんですよ、要は。泣けてくるよね、永遠に理解されない哀愁っていうか」。

ヒップホップと哀愁と古本屋の店主と。一見、バラバラなキーワードが今あなたのなかでカチッとつながっているなら、それもまた異種交配でありヒップホップなのかもしれません。


●コトバヨネットについて
京都・浄土寺『コトバヨネット』
店名:コトバヨネット
住所:京都市左京区浄土寺馬場町71 ハイネストビル21・22号室
電話番号:075-771-9833
営業時間:11:30〜19:00(不定休)
ウェブサイト:http://kotobayo.tv/
古本・古道具、陶器・日用雑貨・文化雑貨、辻田かんきつ部の無農薬かんきつ(収穫期のみ)などを販売。哲学の道散策のついでに立ち寄るのにちょうどよい。


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■著者データ
Kyoko Sugimoto
京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。
Kyoko Sugimoto

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