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秘密法考(2) 日本のマスコミは打撃を受けない(中部大学教授 武田邦彦)

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秘密法考(2) 日本のマスコミは打撃を受けない(中部大学教授 武田邦彦)
今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
■秘密法考(2) 日本のマスコミは打撃を受けない(中部大学教授 武田邦彦)
秘密法が検討され始めたのは民主党政権だが、日本のマスコミは実質的に損害を受けないので、あまり報道しなかった。そして法律が成立するのにすでに「間に合わないタイミング」をはかって激しい反対に転じた。それはこの法律が現実にマスコミに影響を与えることはないからだ。その実際の例を3つ上げる。

記憶に鮮明なのが「尖閣諸島に迫った中国漁船を日本の海上保安庁の巡視艇が拿捕する動画」の公開で、政府は当初「秘密かどうか判断していなかった」ので一部が漏えいした状態だったが、それを一色正信さん(当時、海上保安庁保安官)という立派な人がネット上で公開した。

この情報の公開は「新聞、テレビ、週刊誌などのメジャーな情報機関」ではなく、ネットという新しい媒体だった。その時に、政府は「海上保安庁の職員が秘密を洩らした。規則違反だ」という態度だったが、毎日新聞は「国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた『倒閣運動』」とし、朝日新聞は「政府や国会の意思に反することであり、許されない」と論評した。

この報道は、1)秘密は政権が決める、2)国会については虚偽の報道、の二つからなっている。政権の方針や政府の意思によって秘密が決まるなら、今回の秘密法には毎日新聞も朝日新聞も賛成しなければならない。

また、この時、国会は「判断や意思を示していなかった」のだから、この部分は虚偽報道だった。でもこの記事を書いた記者や新聞の幹部は「秘密はお上が決めるものであり、国民はそれに反した行動をしてはいけない」と考えているか、もしくは国民に迎合するにはこのぐらいのところだろうと思った。

現実は、一色さんが動画を公開し、この動画を公開するのは必要なことだったと大多数の人が認めたが、結果的には一色さんはご退職され、今でも英雄にはなっていない。私なら彼に国民栄誉賞を出す。最近の日本人の中ではもっとも日本に貢献した人のように思う。中国や韓国を非難する人もいるが、それを自らのリスクで行った本当に勇気ある人だ。

2番目はこれも多くの人が「日本のマスコミはどうしようもない」と思った「原発報道」だった。2011年の爆発直後には、1)爆発映像を公開しない(外国では公開されている)、2)付近の人が逃げるときにもっとも大切な「風向き」を隠した、3)政府に追従して健康に影響がないと言い、自分たちの記者は総員、福島から引き揚げさせた、4)土壌の汚染、食材の汚染についてほとんど報道しなかった、5)日本の被曝基準が1年1ミリとなっていることを隠ぺいし、ウソの数値を言った、など枚挙にいとまがない。

この一連のことは報道陣としての魂(自分が損害を受けても社会に事実を知らせる)を失い、保身(テレビや新聞社が打撃を受けないようにする)に走ったことを意味している。NHKは認可を恐れ、民報はスポンサーの顔色をうかがい、新聞は「被曝地域以外の人は人ごとだろう」と判断した。

それが間違いだとわかっていても政府の発表通り行動するなら、今回の秘密法より秘密が多いことになり、しかも国民の健康や生命に直接影響があっても報道しないのだから、そのマスコミが今回のことで打撃をうけることはない。

第三に少し古いことになるが、毎日新聞の記者が沖縄密約を暴いたとき、当の毎日新聞以外の新聞は、時の官房長官が言った「情を通じて情報を得た」という言葉に飛びつき、密約を暴いた記者をバッシングし、社会から葬った。

これについて最高裁は「著しく社会的な不正によって得た情報は漏らしてはいけない」という判断をした。この場合の「著しい不正」とは「不倫」のことであり、それによって暴かれた事実は「日本とアメリカの間に国民に知らされない密約があった」ということだった。

これに対する判断は個人によって違うだろう。まず「不倫」が「著しい不正」かどうかということと、「不倫と国家間の密約」のどちらが重いか、さらには「国家の秘密を暴くのがマスコミ」という考え方に対する是非だ。

日常生活の中で「不倫」は発生するが、刑事罰を受けることはない。かつて不倫によって死刑になった時代(江戸時代など)はあったけれど、現在では不倫は好ましくないけれど個人の問題として離婚とか慰謝料として解決されている。

今回の秘密法では秘密を洩らした公務員の罪は10年の懲役刑だから、不倫とは社会における犯罪の重さが違う。これまで「マスコミの役割」と言われていた「権力が隠そうとするのを暴く役割」はすでに無くなったと考えられる。

そうすると、この社会には権力が秘密にしようとするものを暴くメカニズムがないことになる。2013年でも、スノードン氏のアメリカ機密の暴露事件と国際的な亡命、アメリカ情報当局によるドイツ首相などの盗聴などの事件があり、このような暴露が時々、行われることが社会の正常な発展に寄与すると考えられている。

すでに、「秘密を暴露するマスコミ」は日本には存在せず、むしろマスコミは「秘密にするべきことではなくても報道しない」という存在になり、取材は政府に行くだけで事実を丹念に調べる取材費にも事欠いている。

だからこそ、秘密法も「間に合わないタイミング」で反対を始めたと考えられる。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年12月14日時点のものです。

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